転職してキャリアアップを目指します!
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このコラムでは、日頃お客様の転職活動にフォーカスしているが、実は我々:転職エージェントにも転職経験者は多い。
同業他社でアドバイザーをしていた者、人事・採用業務経験者、それにエンジニアなどの専門職から転向してきた者もいる。元Jリーガーもいれば、警察官もいる。そして、時に「自分が辞めた会社に人を紹介する」という経験をすることになるのだ。
エンジニアKさん(31歳)の転職相談を受けて、我々は自信を持ってメーカーA社を紹介した。
二時間半の面談で、求職者からの希望をじっくり聞いても、求人紹介は手探りになりがちだ。そんな中でKさんに対して、「オススメの会社」にA社を挙げることが出来たのは、Kさんを担当したアドバイザーがA社の元社員だったからであった。
「実は、私は以前、A社で働いていたんですよ」
アドバイザーがそう明かすと、Kさんはまず驚き、そしてすぐに少し眉をひそめた。おそらく『どうして自分がイヤで辞めた会社を、自分に勧めるのだろう』と考えたのだろう。
「A社は私には合いませんでした。エンジニアとして私の専門領域が中途半端だったため、A社のなかで自分の将来像が描けなかったのです」
アドバイザーは自分がA社を辞めた経緯を説明した。
「しかし、エンジニアとして軸足がしっかりしている人には、A社は素晴らしい環境を与えてくれる企業です。会社の風土も、かつての堅いだけのイメージとは違うところが出てきていますよ」
2年前まで在籍していた会社で、かつての同僚とも付き合いは続いている。アドバイザーはA社での働き方や風土を、具体例を交えて詳しく伝えた。
会社を辞めた人間は、現職よりも中立の立場。ある面ではその会社をより的確に見ることができる。Kさんはアドバイザーの話に納得してうなずき、「かつて働いたことがある人の勧めというのは、一番安心できますね」と、応募に意欲をみせてくれたのだった。
アドバイザーの見立て通り、KさんはA社の選考をクリアしていった。KさんもA社の考え方に共感し、転職が決まるのは時間の問題のように見えた。
ところが、セレモニーとして行われる役員面接の直前、Kさんは転職を取りやめてしまう。Kさんは現在のプロジェクトがこうなった、家族との話し合いがうまくいっていない、など色々な理由を述べたが、結局のところ、彼自身のなかで迷いが残っていたように我々には思えた。
A社の採用担当者は、Kさんの辞退に不快感を隠さなかった。
「緊急の事情があるならともかく、彼の言う理由はずっと以前から分かっていたことでしょう? どうしてもっと前に言ってくれなかったのか…」
役員面接の前日キャンセルで、人事も上層部から叱責を受けていたのだ。
この一件の二か月後、Kさんは再び我々のところにやってきた。そしてもう一度、A社を受けさせて欲しいと言うのだ。
「前回は、本当の意味で転職をする準備が出来ていませんでした。今回は仕事もきっちり区切りをつけてきましたし、家族にも十分納得して貰っています」
Kさんの訴えに、我々は応えた。渋るA社の人事を、昔のよしみでなんとか説得し、特例としてKさんをもう一度選考の俎上に載せてもらった。そして、今度は役員面接をこなし、正式な内定書類をもらうところまでこぎ着けた。
だが、しかし…。Kさんは現職の企業で引き留めを受けたようで(Kさんからの連絡が途絶えてしまったので推測するしかない)、再び辞退をしてしまった。
我々は、A社人事から呼び出しをくらうことになった。担当アドバイザーは針のムシロである。
A社の人事は担当アドバイザーに一言。
「こちらも大分無理をしたのに…。二度もつらく当たらないで下さいよ」
担当アドバイザーの転職は形式的には円満退社であるが、辞める時には相応の慰留も受け、A社に迷惑をまったくかけなかったわけではない。人事はそのことをよく覚えていた。
「いや、すみません。私も上(役員)から絞られましてね、ついイヤミを言ってしまいましたが、今後の紹介に期待していますよ」
そう言って意味ありげに笑うA社人事。我々は頭を下げるしかなかった。
現在、アドバイザーは嘆いている。
「A社はああ言いますけど、かえって紹介しづらいですよね。もう失敗できないと思うとプレッシャーが…」
無論、正道はひとつ、邪念を払って、転職者のために行動するしかないと分かってはいるのだが…。かつて働いていた会社に人を紹介するというのも、意外に大変なことなのである。
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